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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)261号 判決 1961年1月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士長野潔、同長野法夫の上告理由第一点について。

論旨は、原判決は、公正取引委員会がした本件審決について、実質的証拠の有無を判断するに止まらず、その限度を超え、事実審として事実を認定した違法があるというのである。

しかし、所論(1)大多数の販売店が上告人の行為により、上告人の意向にそうような行動をとるに至つた事実、(2)各販売店がタイムス本紙不配の決意をするに至つたのは自発的な意思によるものではなく外部からの影響の結果であつた事実について、原判決は推認、推測できる旨を述べているけれども、被上告人がした本件審決が右事実につき同趣旨の推認をしており原判決は、審決の認定した事実が実質的証拠に基いており、その推認が正当であることを説明しているのであつて、自ら新な事実を認定したものではない。それゆえ論旨は理由がない。

同第二点について。

しかし、所論(1)タイムス社が一四販売店の不配地域に専売店を設置したとの主張事実は、審決が認めなかつた事実であり、原判決が「その認定をしないことのあやまりであるゆえんを見出し難い」と判示しているのは、審決が上告人主張事実を認定しなかつたのを正当とする趣旨であることが明らかである。また所論(2)石川、島倉らがタイムス社の専売店に移行準備中であつたとの主張事実は、審決が認定しなかつた事実であるのみならず、原判決も説明するように、かりに所論の事実があつたとしても、それが上告人の行為に基因するものと認められる以上、よつて上告人の行為を正当とすることはできず、この点について、本件審決及びこれを是認した原判決を違法ということはできない。それゆえ論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は、上告人の行為は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二八年法律第二五九号による改正前、以下単に法と略称する)二条六項五号に該当せず不当ではない旨を主張するのであるが、原判決が実質的証拠によつて立証されているとした審決の認定事実と違つた事実を前提としているから、論旨は採用することができない。

同第四点について。

論旨は、違憲をいうが、実質は、いわゆる八社声明は、声明自体に違法性はないから、その撤回を命じた本件審決は違法であり、これを維持した原判決も違法である旨を主張するのである。しかし、公正取引委員会が法二〇条に基いて不公正な取引方法の差止を命ずるについては、単にその行為の外観にのみとらわれることなく、かかる行為が行われた客観的情勢をも勘案し、その行為の意図するところをも考慮すべきことは、同法制定の趣旨からも当然のことといわなければならない。本件の場合、いわゆる八社声明は、他社との連名をもつて合売制度維持の立場に立ち、販売店が一社の専売店になつた場合のことを述べただけであつて、それ自体当然のことを述べたに過ぎない外観を呈しているけれども、審決が認定した前後の事情によれば、要するに、タイムスを取り扱う限り自紙は取り扱わせないとする意図の表明と見ることができるのであつて、審決が撤回を命じたことをもつて違法ということはできず、また、右審決を是認した原判決を違法ということもできない。所論違憲の主張は、実質上、単なる法令違背の主張であつて、違憲に名を藉りるに過ぎないものというべく論旨は採用することができない。

同第五点について。

論旨は、販売店に対する見本紙の供給は販売店にとつては迷惑であり、法二条六項五号にいう経済上の利益の供給にあたらないというのである。

しかしながら、見本紙の供給が個々の販売店にとつて迷惑を生ずることがあるとしても、一般的にいうならば、販売店が見本紙の供給を受けて販売紙数を増加することができれば、それだけ利益であり、見本紙の供与をもつて経済上の利益の供給に該当しないということはできない。そして見本紙の供給が、取引の内容をなすものであることはいうをまたない。

されば、上告人が、販売店が自紙を取り扱う条件としてタイムス社から見本紙の供給を受けないことを条件としたのを不公正な取引の手段と解した審決及び原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第六点について。

論旨は、審決主文第二項が、広く「新聞販売店」と自社と競争関係にある他の新聞社から見本紙または本紙の供給を受けないことを条件として取引してはならないとした結果、上告人が専売店を設けた場合にも適用されることになり違法であるというのである。

しかし、所論審決主文第二項が、合売制の行われる限りにおいて適用されるものであつて、専売制を予想していないことは、その理由に徴し明らかである。あるいは、審決主文において、所論のように、合売制新聞販売店に関する旨を明言した方が妥当であるともいえるであろうが、専売制が一般的に行われていなかつた本件審決当時において、審決主文が合売制販売店との取引を対象とする旨を明記しなかつたからといつて、審決の趣旨が不明確であるということはできず、よつて本件審決を違法ということはできない。さればこれを是認した原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第七点について。

論旨は、審決主文第二項は、その内容がきわめて抽象的であり、本来公正取引委員会の専権に属する不公正な競争手段にあたるかどうかの判断権を審決違反の有無を判断する裁判所の認定に委す結果を来し、違法であるというのである。

しかし、審決主文第二項は決して抽象的な不明確なものではなく、将来のいかなる行為を禁止したかは審決自体で明らかである。本件審決は、主文第二項のような取引をもつて不公正な競争手段とし、そのあらわれとも見るべき主文第一項掲記の行為の撤回を命じ、将来において、右不公正な競争手段の繰り返しを禁じたのであつて、何等違法とすべき点はなく、これを是認した原判決も違法とすべき理由はない。

以上説明のように、論旨はすべて理由がないから、本件上告は棄却すべきものとし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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